2011年から14年までの日記

2014年04月25日

桜の季節を一足でまたいだ。
街では新緑の葉桜が何も落とさずに揺れていた。電車の中ではたくさんの指が動いていた。公園では見たこともない木の実を拾った。トンネルのように薄暗くて細長い商店街はすみからすみまで歩いていった。街角では誰のものかわからなくなった記憶にぶつかるような気がした。東向きのベランダにはもう日が当たらなくなっていた。最近越してきたアパートから歩いて3分の境内では、ハトを追いかける子供も、追いかけられるハトも起きていて、洗剤の匂いのする人が眩しかった。

彗星のように時が流れてそれでおしまい。
けれど夏にまた戻ってきたいものです。



(19:11)

2014年02月28日

 東京に向かう新幹線のなかで夢を見た、男が言葉は絶望のことだと言った。 品川駅に着いた。
 渋谷駅に着いた。井の頭線に乗り換えた。電車が止まった。満員電車のなかで背中に背負ったギターがみしみしときしんだ。下北沢に着いた。コンビニで道を聞いた。カフェで2曲歌った。素晴らしい東京滞在を!という言葉をもらった。新宿に着いた。歩いた。オニイサンゲンキナイネと言われた。牛丼屋に入った。ジャズ喫茶に入った。漫画喫茶に入った。歯が少し痛んだ。部屋においでよという漫画を読んだ。
 朝になった。新宿は雨になった。24時間レストランに入った。カラオケボックスで仮眠をとった。新宿2丁目に行った。飛び入りライブが行われているバーに行って、1時間歌わせてもらった。素晴らしい旅をと言ってくれた人がいた。傘をもらった。歩いた。オニイサンヘルス?と言われた。ラーメンを食べた。漫画喫茶に入った。ほしのふるまちという漫画を読んだ。東京に向かう新幹線のなかで夢を見た。 品川駅についた。





















(07:43)

2013年11月22日

 来週引っ越しをする。今年の5月に全所持金4万円だけ持って不動産屋へ行き、「事情があって明日からでも住める家を探しています、4万円しかありませんが」と言って探してもらった、今の部屋。「4万円。なんとかしましょう。うん?うんうん、ここにしましょう、ここしかありません、うん。」といわれなんだか腑に落ちないまま住み始めたこの部屋。以前住んでいた部屋から北西に数キロ移動しただけの、引っ越して3日目にゴキブリのでたこの部屋。5月から10月まで寝袋で過ごした部屋。一度も返事を出した事がないのにこの部屋あての手紙を書き続ける人が隣に住むこの部屋。太陽も月の光も1日に数十分間しか差し込まない、この部屋。215号室。このことを知ってか知らぬか、216号室の住人は「帰る時が来たようですね」という言葉から始まる手紙を僕の部屋のドアに隙間に挟んだ。壁が薄いのか、僕の声が大きすぎるのか。
 




(23:34)

2013年10月31日

10月 1
 今の自分にとって、歌にする必要のないことは歌にしない。

10月 2 
 酔った時にしか書かない、酔った時にしか書けない。酔いどれ日記か。
何を書けばいいのかわすれた。 

10月 3
 朝起きると最近僕の部屋に届いた布団セットがぬれていた。もしやと思ったが日本酒だった。昨日は落ちるところまで落ちた。だからいま元気です。図書館で小津安二郎の『お早よう』という映画を見た。小津映画には毎回笠智衆という俳優が出演しているのだけど、この人を見る度にある人を思い出す。会って話がしたくなる。会いに行ったけれどまた会えなかった。ともかく、ユーモアが大事だ。
 昨日ウェイターとして働いていると、50くらいのおじさんにプリンを頼まれた。プリンを運ぶとおじさんは申し訳なさそうにごめんなと言った。50にもなってプリンを頼んでごめんって言われたように思えた。今日は歯医者に行った、また道を間違えた。
 僕は流されやすく、昂りやすく、客観的に見ていかにも愚かな人間だ、だから美しいものを作りたい、わかってもらえるだろうか。 これは独白。

10月 4 
  今日はバイトが休みだったので昨日から四天王寺で行われている大古本市というものに出かけた。今日は久しぶりに涼しかった。たくさんの古本屋が出店していて、(たしか20店鋪くらい)市井の某古本屋ではお目にかかれないような本が、安値で売られていて、僕はすごく興奮した。気付いたら5時間程経っていて、驚き、疲れた。映画を見に行こうと思っていたけど今日はやめることにした。探していた作家の本に出くわした時、泪さえ流さないけども、「我発見せり!感ここに極まれたり!」と叫びたくなるような気持ちになったりならなかったりした。
 本を開くためには時間がいる、時間を消費する勇気がいる、だけど開けばその文字が織る風景に包まれる。けれども開くには力がいる、窓を開くためにはカーテンを開き、鍵穴を回さなければいけない。それにその先は絶景であるとは限らない、なにか部屋の中に侵入してくるか分からないし、どんな風が吹いているかわからない。その窓の向こう側を垣間見たいと勇んで窓を開くことができるのは限られた時だけだ、僕はそうだ。
 コーヒーの安そうな喫茶店へ入り、ドイツパンというごまがたくさんついたパンを昼ご飯にして、少しだけ本を読んで帰る。スーパーで、ビールとレトルトカレーにのっけるコロッケを買って帰る。大阪城公園に行って練習をする。なんだか今日はうまくいきすぎている気がして、 逆に不安になり、気持ちが悪くなる。
 帰り道、子猫が道ばたで死んでいるのを見つけた、近づくと首から血を流しているのが分かった。
 帰り道、黒ぶちの猫が自転車置き場の影に潜んでいるのを見つけた。今日はなんとなく「おいで」とも「おまえはかわいいな」とも「言葉わかるか」とも言わなかった。
 明日も4時半起き。コロッケカレーを食べて、僕の一日はもうじき終わる。 




10月 5 
 朝4時45分に起きてバイトへ。随分と冷え込むようになった。寒さをしのぐ服を買わないといけない。いそいそと働く。この3連休中は人が多くて大変だった。疲れたので帰って3時間寝る。日も暮れた頃、大阪城公園でいつものベンチに座って練習をしようとすると、どこかで聞いた事のある叫びのような歌が聞こえてきた。エレファントカシマシだった。大阪城公園野外音楽堂で歌っているのだ。2年前か3年前か、僕は同じようにそこで彼らのライブを見た、興奮して野外音楽堂の近くに行ってみる。木に腰掛ける。同じようにお金を払わずにライブを聞いている人たちの中に腰掛ける。そして雨のような拍手、ライブが終わったみたいだ。もう少し聞きたかったなと思う。数年前に見たその歌い手の姿が浮かんだ。
 ある友人の言葉に守られて、ここ2、3日は清常な気持ちが続いている。
  先日古本市で買った絵本や画集を見ていると、数年ぶりに絵を書いてみたくなった。
 いま隣の部屋に住んでいる人がベランダに出てきて「おい起きてるか」「おい起きてるか」と僕を呼んだ。こんどはドアをノックされたけど僕は何も言わなかった。物音を立てないように静かにパスタを作って静かに本を読んで寝よう。

 追記、それとはあまり関係ないが12月に引っ越す予定


10月 6  
 AM.6時からバイト。今日もすごく忙しかった。温厚そうに見える職場の女の人が「今日はいらいらする」と言っていた「森本さんは全然怒らないんですね、怒ることあるんですか」と言われたが僕は落ち込んでいた。
 雨が降っていた 、昨日干した洗濯ものが乾かないばかりかしっとりと濡れていく情景がありありと浮かび思わず顔をゆがめた。傘を持ってきていなかったので職場近くの喫茶店に入りCDを聞いた。マーヴィンゲイとバドパウエルのアルバムを一枚ずつ聞いて、雨があがったようなので店をでた。
 帰宅し、部屋の掃除をしてから小さな机の前に座る。
 雨の日が続いて 合鍵は錆び付いて という1行からはじめて、両足の爪が全部なくなる頃(歌詞を、詩を書く時は追いつめられるため伸びている両足の爪という爪を手で剥がす癖がある) 鉛筆を置いた。白紙がキスする、なんて詩の1行があるが。PM.8時前。
 
10月 7 
もう少ししたら花井さんのライブを見にでかける


追記 なんと僕も1曲歌わしてもらった。 Nonsugerこと花井大輔さん、名前も好きだ。12月28日のライブに出てもらえることになった。おでん食べて寝た。

10月 8
 昨日は見に行きたいライブがあって、アルバイトを終え、ライブに行く前に歯医者に行ったのだけど、治療中に唇を圧迫された。右下の唇の一部がうっ血して赤くなり、まるで口角から血を流している吸血鬼のような顔面になっていることに気がついたのは部屋に帰ってから。行くかどうか少し迷う、あまり人を怖がらせないようにしようと決めて家をでた。梅田ハードレインに初めて行く。森脇ひとみの人形劇、四万十川友美の歌、くらみらく流の歌、を見た。うなるほどいいと思った場面があった。
 給料が入ったので座布団を買ったらタオルが一枚ついてきて嬉しかった。
 
10月 9
 24時間レストランにこもる。レナードコーエンの「スザンヌ」という歌が流れてきて驚く。「彼女は教えてくれる、花とごみの間のどこを見れば良いのかを」。昨日部屋で歌詞カードを読みながら、驚嘆しながら聞いた歌を、失礼かもしれないけど近所のレストランで聴けると思わなかった。昔作った歌を書き直す。煙草の吸い過ぎで頭が痛くなり、お店をでる。雨は上がったらしい。行き詰まった。スーパーで半額になっていた天ぷらの盛り合わせと、ビールを買ってレジに。レジ打の人の胸元についているなふだには「こおりやま」と書かれていた。これだ。書けなかった箇所を埋める。あと2行。あと2行。
 隣の部屋から手紙が届く。
 これで6通目。 

10月 10
 眠れたかと思うと歯の痛みで目が覚め、とりとめもない幻惑が頭のなかをぐるぐる周って弱った。朝の5時に起きる。今日は友達の父親がやっている楽器屋さんのアルバイト。大阪北摂のある大学のある学園祭へ。夜7時頃家に帰る。なにも食べる気がしなかったけれど、すこしでもおなかに食べ物を入れておこうと思い、コンビニでインスタントやきそばを買って帰る。超大盛り、激辛という文句で売り出されていただけあって歯茎の芯までしみた。4分の1ほど食べて残す。自分はまたなにをやっているのだと感じた。ノートパソコンで返却期限の迫った映画を見る。主人公の名前はバド、ヒロインの名前はデイジー。

10月 11
 朝、嫌な夢を見て気分が悪かった。起きて、布団を干そうとベランダにでると隣の部屋の住人が「おったんか」と話しかけてくる。5分くらいひとりごとのように喋り続け、それがまたなにを言っているのかが全くわからなった。正直歯が痛くて堪らなかったので静かにしてほしかった。夕方欲しかったCD1枚と本1冊を買いになんばへ行く。買ったCDをウォークマンで聞きながら家に帰る。触発されて浮かんだメロディを2つ小さな音で録音する。親子丼を買って食べる。痛い。横になる。

10月 12
 朝6時からバイト。途中で鎮痛剤の効果が切れて動きが鈍くなる。昼におかゆを食べるものの、かゆの微妙な厚みでさえ噛み潰すのに苦労する、食べたあと口の中がじんじんして落ち込む。バイト終わってから歯医者へ。痛みがひくのにはもう少しかかるとのこと。
 
ビール、銭湯、天丼、カツ丼、熱燗、かつカレー、ウィスキー、クリームシチュー、安眠

   ビール、銭湯、天丼、カツ丼、熱燗、かつカレー、ウィスキー、クリームシチュー、安眠





 届いたきり壁に投げつけてほっておいた手紙を読む。最高の罰を受けよと書いてある。呪いの手紙は書いちゃいけない。言葉は鏡だ。
 読み終わると同時に、扉の隙間に新しい手紙がねじ込まれる。 

 
 



(00:00)

2013年10月04日

 昨日、谷町9丁目でライブがありました。見てくれたかたがた、どうもありがとう。共演は香川県から来られていた小野シンさん、同い年の山田孝典さん。小野さんの「みんな閉じられた本の中で歌っている」という歌詞や、山田さんの「宙へ、宇宙へ、宇宙、遊泳ー」と歌う姿が印象に残った。記憶違いだったら申し訳ないです。
 日が明け暮れ、どんな言葉にもできない凄惨な夢を見たあと僕は近所の歯医者さんへ行った。2ヶ月もの間この暮らしを悩まし続けた歯の痛みとお別れするためだ、インターネットで場所を把握、加えて携帯のカメラで地図の画像を撮っておいた。にもかかわらず場所わからず、携帯探す、ポケットに携帯なし、いざ団地妻に道聞きぬ、小児の母「その四つ角を右に曲がりて、実直に、左方に歯科医院あり」、しかし場所分からない、歯医者なし、しばらくあたりを徘徊した後に「北へ150メートル」と書かれた看板を発見、指示に従い、やっとたどり着く。
 1時間待つ、長田弘の「詩は友人を数える方法」を読み進める。 彼は北アメリカ大陸を旅しながら、その広大な風景を見、読み、考え、文章を紡ぎながらアメリカ人の詩を、無名の生活者たちの沈黙を引用しようと試みる。バルチモア、ナッシュビル、テネシー、ジョージア・・・・昨日のライブで、僕の歌を聴いてくれた人が僕のルーツを尋ねた。(「君はどんな音楽が好きなの?こんな音楽が好きじゃない?」という疑り深く、時に思い切って取り交わされるこんなやり取りは、ライブに慣れていない僕にはすごく刺激的だ)その時にアメリカ、ネオアメリカン、尾崎豊という名前が飛び出した。アメリカ、ネオアメリカン、尾崎豊・・・自分が影響を受けてきたものの名前を取り出してみるが、ただちにはそれらと結びつかない、しかしよく考えてみると自分の好きな音楽家たちの多くはアメリカにルーツを持っていることに気付く。尾崎豊は、ジャクソンブラウンが好きだったみたいだ。それにホイットマン、ポー、ジャズ、ゴスペル。そうか、そうなのか。

 ところで虫歯に悩まされ、歯医者に通う時間がないあなたに、こんな詩を
 

 ーはげしい歯痛に耐えるために
 高等数学に熱中する初老の男のエピソードが
 「魔の山」という小説のなかにあったっけ
 そして主人公の「単純な」青年の葉巻は
 マリア・マンチーニ

 どうして葉巻の名前なんか
 ぼくはおぼえているのだ 三十三年まえに読んだドイツの翻訳小説なのに
 ぼくも歯痛をこらえながら詩を書いてきた
 歯痛に耐えるためにというべきかもしれない
  ところがぼくの詩ときたら
 高等数学とちがって 
 歯痛をかきたてるのだ 歯痛には
 いつも新鮮な味とひびきがあって
 生まれたときから何回も経験してきたくせに
 この痛みの新鮮さにいつもぼくは驚かされるー
(「夜間飛行」田村隆一)

 

(22:09)